Interview #15
Interview #15
「支える」 ことを学び続ける
─研究と育児の交差点で
つくば市・筑波大学共同事業
発行:2026年2月
Profile

筑波大学人間系(附属学校教育局)助教、博士(学術)
藤本 啓寛(ふじもと たかひろ)さん
千葉県出身。筑波大学人間系助教、附属学校教育局指導教員。早稲田大学大学院教育学研究科修了、博士(学術)。




具体的な業務内容を教えてください。
児童・生徒の学びの環境を支える、スクールソーシャルワーカーについて研究しています。具体的には、スクールソーシャルワーカーとして働く人々がやりたいと思った通りに、すなわち自律性を持って仕事をすることができているのかということに注目しています。また、筑波大学附属学校教育局で指導教員も務めており、主にスクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの統括業務を行っています。また、筑波大学の障害科学類や社会人大学院での授業、研究指導も担当しています。
スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーにはそれぞれどのような役割があるのですか?
スクールカウンセラーはカウンセリングを通して悩みを聞き、相談者が前向きになれるように人の内面へのアプローチを得意とする心理の専門職です。これに対してスクールソーシャルワーカーは人の外面へのアプローチを得意とし、家庭の経済状況など環境に関する支援をする福祉の専門職です。両者には共通点がありますが、どこに力点を置いて支援をするかが違っています。
ご自身の職域(テーマなど)について、興味をもったきっかけを詳しく教えてください。
小・中学校でいじめを受けたことが最初のきっかけです。担任の先生らが話し合いの場を設け、指導してくださったことでいじめは収まったのですが、苦しんだ経験から「学校を傷つく人が出ない場にしたい」と思うようになり、学校生活での悩みについて休み時間や放課後に友人と一緒に考えるようになりました。高校入学後は、受験実績ばかりに目を向ける学校に違和感を覚え、むしろさまざまな問題を抱える目の前の生徒に向き合うべきなのではないかと思いつつも、受験勉強に追われる日々を過ごしていました。そのような自己矛盾を感じながら、将来は教育に携わりたいと思い早稲田大学教育学部に進学しました。在学中にスクールソーシャルワーカーの存在を知り、自分もなりたいと思いどのような職業なのか学び始めたところ、学校の先生との連携の難しさなどの課題があることも知りました。そこで、スクールソーシャルワーカーが自律性を持って働くにはどうしたらいいのかということを探る研究もしたいと思うようになりました。
達成感ややりがい、醍醐味などを感じられる瞬間はありますか。
自分の研究についてフィードバックをいただいたときにやりがいを感じます。研究対象者の方々へ研究成果を伝える場を設けることがあり、スクールソーシャルワーカーの方々から直接フィードバックをいただくことが多いです。「苦労を言語化してくれて元気になった」などの好意的なフィードバックをいただくとやってよかったという気持ちになります。中には批判的なフィードバックもありますが、それを基に研究を前に進めていくことができるので、よいことだと思っています。
今後の展望を教えてください。
「義務標準法におけるスクールソーシャルワーカーの教職員定数化」の実現に貢献したいと考えています。義務標準法では、1学級の児童生徒数が35〜40人と定められ、学級数に応じて教職員定数が定められていますが、スクールソーシャルワーカーについてはそのような決まりがありません。そのため多くの学校・児童生徒を少人数で見なければならない状況になり、思うように動けないスクールソーシャルワーカーがたくさんいます。自治体の予算などによってバラバラの配置人数を引き上げてそろえる法律がスクールソーシャルワーカーにも必要だと考えています。その実現を目指して、研究を続けていきたいです。




ご自身の育休取得について教えてください。どのようなきっかけ・背景で取得を決められたのでしょうか。
取得しないという選択肢は考えておらず、一番大変な時期である生後すぐから育休を申請しようと考えていました。期間について、パートナーは1年間を希望していましたが、実際に取得したのは約4か月間でした。パートナーの気持ちは百も承知でしたが、担当授業や研究指導の代理を立てることの難しさや、着任1年目であり、人数が少ない組織で他の教職員の負担増を危惧した遠慮が生まれたことから、1年間の申請をすることができなかったのです。育休期間が理想より短くなってしまった分、復職後も積極的に家事・育児を引き受けることでパートナーとの間でなんとか折り合いをつけました。
職場や周囲の理解・サポート体制について感じたことがあればお聞かせください。
大学の教員組織と附属学校教育局のいずれも、育休に対する理解を示してくれました。しかし、実際に育休を取得するための準備は手探りで進めなければなりませんでした。簡単な事務手続きを済ませば取得はできるものの、育休中は業務を代行してもらわなければならず、誰にどのように頼むかを考えることに苦労しました。大学教員の職務特性上、上長がすべての業務を隅まで把握しているわけではないため、上長に采配を依頼するより自分で代案を作成した方が良いという判断に至りました。私より早く育休を取られた先生の方法を参考に育休中の代案を作成し、各上長に面談の機会を設けていただき快諾を得ることができました。しかし、妊娠の安定期に入る前から育休の調整を進めなければならないことは大きな不安を伴うものでした。
育児と仕事(研究・教育)を両立するにあたって、大変なことはありますか。
時間の使い方でとても悩むようになりました。赤ちゃんには、数時間おきの授乳や泣いたときの対応をはじめとしたさまざまなケアが必要で、いくら時間があっても足りないくらいです。勤務先の研究者には裁量労働制といって、1日のうち何時から何時まで働くのか、何時間働くのかという勤務時間を自分で決められる一定の裁量が認められていますが、私が仕事の時間を増やすと、その間の育児はパートナーが一人で引き受けることになります。家庭も仕事も大切にしたいからこそ、限りある時間をどう使うかが悩ましいです。
今後、大学や社会で男性教員が育休を取りやすくするために必要なことは何だと思われますか。
仕事と育児を両立できるような仕組みを整えることが必要だと思います。具体的には、「育児休業中の就労」が柔軟に認められるようになってほしいと感じました。「育児休業中の就労」とは、育休中であっても月10日(を超える場合は80時間以下)までであれば一時的・臨時的な業務を行うことができるという厚生労働省が認めた仕組みです。育休中は完全に仕事から離れなければならないとなると、自分の研究や学生指導ができなくなってしまうため、取得に慎重になってしまいます。私の育休取得期間は6〜9月で、これは学生の論文執筆の追い込みや提出時期を避けてのことでした。「育児休業中の就労」が柔軟に認められることで、男性教員に限らずすべてのジェンダーの教員がより育休を取りやすくなると思います。
若い世代の研究者や、これから家庭と仕事の両立を考える人たちに向けて、メッセージをお願いします。
私自身も若い世代の研究者であり、家庭と仕事の両立に悩んでいる最中です。誰もがそれぞれ置かれた環境で悲しんだり苦しんだりすることがあると思いますが、その悲しみや苦しみはいつか誰かを支えたり、人の悲しみや苦しみに向き合っていく研究の糧となると信じています。