Interview #07

光の情報を利用して宇宙の神秘に迫る

つくば市 ・ 筑波大学共同事業
発行:2024年7月

Profile

産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門 研究員、博士(理学)

松岡 萌(まつおか もえ)さん

秋田県出身。東北大学大学院理学研究科地学専攻博士課程修了、博士(理学)。JAXA宇宙科学研究所招聘職員、仏パリ天文台ポスドク研究員を経て産総研地質調査総合センター地質情報研究部門研究員。専門は惑星科学。趣味は旅行と読書。

業務内容について具体的に教えてください。

私が所属している地質情報研究部門のリモートセンシング研究グループでは、衛星画像と、地質・地理データを合わせて、地質や資源、防災・減災、環境などに関わる研究開発を行っています。リモートセンシングとは、そのものに触れることなく、そのものを知るための技術です。探査機や人工衛星からターゲットを観測することで、ターゲット表面の性質に関する情報が得られます。

私は、惑星や小天体の観測データ解釈や、それに対応する鉱物や岩石等の分析を行い、その天体の歴史や太陽系の成り立ちを明らかにしようと研究しています。特に紫外や可視、赤外光を使った分光分析に取り組んできました。はやぶさ2のような探査機や望遠鏡による天体の分光観測を行うほか、鉱物や岩石等のサンプルの分光分析を行います。こうした衛星データと地質データを活用して、宇宙の「なぞ解き」に挑戦しています。

ご自身の職域(テーマなど)について、興味をもったきっかけを詳しく教えてください。

小中学生の頃から漠然と自然や宇宙、生命に対する憧れのようなものを持っていて、そのまま理系に進みました。大学の研究室選びの時期に前後するタイミングで、現在までずっとお世話になっている指導教員の先生が異動されてきました。先生の講義で隕石や、はやぶさが持ち帰った小惑星イトカワのサンプル分析と、それらから太陽系の成り立ちに迫ろうとするダイナミックな研究について初めて知り、興味を持ちました。

子どもの頃のエピソードを教えてください。

小学校の頃は、放課後に近所の友達と公園や帰り道でよく遊んでいました。それに加えて部活や習い事もして、週末は家族で出かけて、今思うとかなり活動的でした。読書も好きでした。図書館で毎日のように本を借りて貸出票がどんどん分厚くなっていったのを思い出します。勉強に関しては、特に意識していませんでしたがある種のゲーム感覚みたいなものがあって、高得点を狙う気持ちが強かったと思います。どの教科も面白いと思っていました。

好奇心旺盛な子どもだったということですが、高校・大学時代について教えてください。

小学校・中学校もそうですが、今思うと、学校は同世代が同じ空間で長い時間を一緒に過ごす、かけがえのない場所でした。特に高校時代のクラスは個性的なメンバーが集まっていて面白かったです。

大学は、自然科学を学びたかったため理学部を選びました。指導教員との出会いだけでなく、ここでもいろんなバックグラウンドや将来の夢を持った友達ができました。研究室内外の先輩後輩も素敵な人ばかりです。

これまでに影響を受けた人物はいましたか。

今までお世話になった方全員から影響を受けていると思います。特に、小さい頃からジェンダーに対してバイアスがかかりにくい、とても恵まれた環境にあったと思います。両親は共働きでしたし、保育園の保育士さんも小学校の校長先生や教頭先生も女性男性どちらもいて、進路に対して性差を意識することがありませんでした。大学に入った時は女性が少ない環境に驚きましたが、所属した研究室や、ポスドクで行ったパリ天文台も男女比率はほぼ半々でした。パリ天文台では受け入れ教員の教授が女性だったのですが、その仕事ぶりや人柄が素晴らしかったです。先輩世代の女性の方々が努力され、活躍されたことで、今こうして私が女性であることを意識せず、研究者を続けることができるのだと思います。

研究という仕事において、これまで苦労された経験や大変だったこと、辛かったことはありますか。また、どのように乗り超えましたか。

この先まだまだいろんな経験が待っていると思うのですが、これまでのことで思い浮かぶのは、初めて投稿論文を書いたときのことです。当時私は修士課程の学生でしたが、議論の組み立てや科学論文としての英語表現を身に着けるのに苦労しました。最終的には自力で書けるようになる必要があるので、先生に指導頂いた科学論文の書き方や表現を吸収してまた書き直すことを繰り返し、読んだ論文から学んだ表現を自分のものにできるように取り組みました。

研究という仕事において、達成感ややりがい、醍醐味などを感じられる瞬間はありますか。

私は、隕石は神様からのプレゼントか手紙に近いものだと結構本気で思っています。人間が欲しいときに欲しい種類が手に入るようなものではありません。またそのふるさとである小惑星は望遠鏡で観測できますが、見たいところが必ずしも観測できるわけではありません。それでも人間が頭を使って、できることをし尽くして、近年では探査機のおかげでさらに新しいデータが手に入り、小惑星と隕石のなぞ解きが一歩また一歩と進んでいます。こうした営みは非常にエキサイティングだと思います。

また、分析と一口に言っても、どんな方法で調べるか、また得られたデータをどう読むかは人それぞれです。学会で様々な分析手法や新しい考え方に触れることも楽しく、研究を続ける原動力になっています。

研究者としての今後の展望について教えてください。

太陽系の成り立ちの解明に向けて、ぜひ研究を続けていきたいと思います。現在、次々と小惑星のサンプルが集まっています。新しい成果を貪欲に取り入れて知識もアップデートしながら、多角的なアプローチで研究を進めていきたいと思います。手を動かしてサンプルと向き合い、データを議論する室内実験にも引き続き取り組んでいきたいと思っています。

研究者を目指す若い世代へメッセージをお願いします。

一人でじっくり考える時間も欠かせませんし、人との交流や議論も非常に大事ですし、かつ楽しいです。一口に研究といっても本当に多様なアプローチやスタイルがあります。きっとみなさんひとりひとりにしっくり来るテーマや手法が見つかると思います。このエキサイティングな世界でぜひ一緒に研究しましょう!

取材・文:上殿 恵美 / マンガ・デザイン:中林 まどか

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