Interview #06

研究者の挑戦とキャリア形成
⎯ 転機の先にある光

つくば市 ・ 筑波大学共同事業
発行:2024年5月

Profile

農業・食品産業技術総合研究機構 理事、博士(薬学)

鈴木 孝子(すずき たかこ)さん

千葉県出身。農業・食品産業技術総合研究機構理事(評価、広報担当)。東北大学大学院薬学研究科修了(修士)、博士(薬学)取得(論文博士、東北大学)。

業務内容について教えてください。

現在、農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)で理事を務めています。主な業務は、法人組織の評価、広報のマネジメント、複数の研究所が連携した研究プロジェクトの運営です。

現在に至るまではどのような研究・業務をされていましたか。

大学院では薬学を専攻し、ヒトのガンについて基礎研究をしていました。その経験を活かして、農研機構に入ってからはウシにガンを引き起こすウイルスについて基礎研究を行いました。途中アメリカに一年間留学してウイルスの研究を継続していたのですが、その間に農研機構は組織が新しくなりました。帰国後、新体制となった組織で研究テーマの方向転換が求められたため、ブタに発育不良等を引き起こし死亡率を上昇させるウイルスの研究を行うことになりました。それまでの研究では、科学的理論を新たに形成するような基礎研究を行っていましたが、研究テーマを変更したことで研究手法も転換し、今度は特定の課題について解決策を導くような研究を行うことになりました。また、国に出向した際には、研究予算の獲得やプロジェクト立案、議員関係者の方々とのやり取りなど様々な経験をしました。本部の課長を務めるようになってからは、管理職へのキャリアパスを考えはじめました。その後は本部の部長や所長を経て理事となりましたが、国への出向経験は現在の業務内容にも活きていると感じます。

高校生・大学生の頃はどのように過ごされていましたか。

高校時代は合唱部に所属して、コンクールや演奏会の練習を熱心に行っていました。このときの部活動選択は、クラシック好きの父に影響されていたのかもしれません。定期演奏会を通して関わる合唱部のOB・OGの方から大学についての話をよく耳にしていたため、その後の学生生活に活かされました。大学・大学院では研究活動に集中し、毎日夜遅くまで研究室に残って実験に励んでいました。

これまでに影響を受けた人物について教えてください。

研究者であった母です。昔は今ほどルールが厳しくなかったので、休みの日にはよく研究室に連れて行ってもらいました。母が実験している姿を見てかっこよく感じ、研究者という職業への憧れを持ちました。

今後の展望について教えてください。

現役の研究者が生き生きと研究に取り組めるようにしたいです。組織の中で研究者がやりがいを持って働けるような環境構築に努めたいと思います。

研究者として苦労されたご経験や辛かったことはありますか。

今ではもう少しマクロな視点で捉えられると思いますが、基礎研究を行っていた頃は、一つ一つの研究の過程を楽しみながらも、どうしてもミクロな視点になってしまい、研究の社会的意義について悩むこともありました。当時の上司からは「サイエンスの進展に貢献することに意義がある」とアドバイスをいただいたことを覚えています。また、子ども二人を連れてアメリカへ留学した際に、子どもが環境変化に苦労していたことを辛く思いました。上の子は当時小学一年生で、留学先を日本語が通じない環境と理解できており、現地での交友関係も楽しめていましたが、下の子は当時二歳だったため、今までと異なる言語が飛び交う環境になじむことは難しかったようです。

研究者として達成感ややりがい、醍醐味を感じた経験について教えてください。

基礎研究を行っていた頃は、実験結果を見る度にワクワクしていました。結果を見る日を大安に設定し、願掛けを行うこともありました。また、執筆した論文の学術雑誌等への掲載が決まるとやりがいを感じます。客観的に認められた研究成果が世界に公開されることは、研究の醍醐味だと思います。

また、応用研究としてブタへの被害が発生している養豚場に出向き、被害原因と思われる新たなウイルス株の実態を解明するための調査を行った経験も達成感がありました。この研究が求められた背景は、ブタへの被害が拡大している同ウイルスのワクチンが海外で承認されたことから、日本でも早急な承認を求める声があったことです。日本での被害状況や新たなウイルス株の蔓延状況というワクチンの必要性を示す成果を上げることができ、ワクチンが無事に承認されたとき、生産者の方々から「先生のおかげです」「ありがとうございます」と感謝の言葉をいただきました。自分の研究成果が社会に貢献している嬉しさを実感できたことを覚えています。

休暇の過ごし方について教えてください。

以前は春から秋にテニスを、冬にはスキーをしていました。テニスはつくば市でさかんに行われていて、体を動かす楽しさを知るきっかけとなりました。最近は家族や友達と旅行に行ったり、家でのんびりドラマ鑑賞や読書をしたりしています。先日は高校時代の友達と一緒に温泉旅行に行って、穏やかに語らう時間を過ごしました。昔ほどアクティブな過ごし方ではなくなりましたが、結構満足しています。

研究者を目指す若い世代へメッセージをお願いします。

研究を続けていると、テーマを大きく変えなければならないこともあると思います。せっかくここまでやってきたのに…、この研究がすごく好きなのに…と感じるかもしれませんが、転機は大きなチャンスになり得ます。新しいテーマは新しい視野を与えてくれますし、研究者を目指そうという好奇心旺盛な皆さんなら楽しんで取り組めると思います。自分で自分を縛らず、新しいテーマにも積極的に挑戦してみてください。

取材・文:豊冨 瑞歩 / マンガ・デザイン:中林 まどか

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