Interview #05

データサイエンスを活かした地域社会の課題解決

つくば市 ・ 筑波大学共同事業
発行:2024年2月

Profile

上智大学基盤教育センター特任助教、博士(社会工学)

讃井 知(さない さと)さん

茨城県出身。上智大学基盤教育センター特任助教。筑波大学人文学類入学後、社会工学類に転学類。筑波大学大学院システム情報工学研究科博士前期・博士後期課程修了。博士(社会工学)。

業務内容を具体的に教えてください。

教育と研究に携わっています。教育の面では、上智大学の基盤教育センターに所属し、全学対象の必修授業であるデータサイエンス科目を担当しています。同センターに設置されている、データサイエンスに関連する研究活動や就職活動、資格取得についての学生相談を受け付ける「データサイエンス・クリニック」にも携わっています。研究の面では、社会心理学の立場から、地域コミュニティにおける人々の安心・安全に関わる課題を対象に行っています。心理学の知見を活用して、人々に寄り添った効果的で継続性のある社会システム・制度を構築したいです。

現在の研究職に至るまでの流れを教えてください。

社会制度に興味を持ったきっかけは、大学入学年に発生した東日本大震災です。親戚が東北地方に住んでいる中で目の当たりにした復興支援では、社会制度や人の影響力を強く感じました。筑波大学入学後「まちづくり」「復興」に関する学問として社会工学に出会い、大学二年次に理工学群社会工学類に転学類しました。大学一年次から二年次までは政策に関する勉強会を行う学外サークルに所属しており、実際に政策立案の仕事に触れる機会が多くありました。そこで社会問題の解決にサイエンスが結びついていることを実感しました。そして、課題を抱えている現場と政策立案の現場の意識には乖離があるのではないかという問題意識を持ち、支援を要している現場の声が政策立案の俎上に載るような「データの活用」について模索したいと思うようになりました。

幼少期から学生時代まではどのように過ごされていましたか。

小学校高学年の頃は、小説家や評論家など文章を書く人になりたいと思っていました。大学入学後には、共通科目の受講や教員とのディスカッションに励みました。筑波大学の理念や精神を知り、自分のやりたいことができる寛容さや自由なところに惹かれて、筑波大学大学院への進学を決めました。大学・大学院在学中は様々な課外活動を行いました。たとえば学園祭実行委員としての活動、学内サークル・団体の設立、複数のアルバイトを経験するほか、一般社団法人の設立を行ったり、つくば市の第八代・第九代観光大使を務めたりしました。多様な経験をすることにより将来に対する漠然とした不安が解消され、自分の適性をより深く認識でき、その後の選択肢も増えました。

研究者としての今後の展望について教えてください。

「人に寄り添った社会システム作りに貢献したい」という思いで研究しています。現在、立案・実行された政策に対する効果検証の必要性がより高まっています。関与する人々にとって不自然な政策になっていないかを考慮するためにも、効果検証する際のデータの取り方は極めて重要です。データサイエンスを活かしながら社会心理学分野で研究活動を続けるほか、研究者や実務家との協働の仕組みづくりも行いたいと考えています。

研究者として苦労された経験、大変だったこと、辛かったことはありますか。

私は楽観的な性格ということもあり、辛いと思うことは少ないです。苦労した経験としては、研究者として現場に参入する際、当事者に拒否感を持たれることがありました。そのため価値観のぶつかり合いにならないような対話を心掛けています。大変なことは、研究調査の下準備です。個人情報への十分な配慮を要するデータを扱う研究では、大量の印刷や郵送などの作業を自分一人で行う必要があることもありました。

研究者として達成感ややりがい、醍醐味を感じた経験について教えてください。

研究のアイディアが浮かぶと手応えを感じます。文献や他者との意見交換を通して、新しいものの見方を獲得できたときはとても楽しいです。課題の解決を考えることに終わりはないため、「達成した」と思うことは少ないかもしれません。しかし、仮説を立てたり適切な着眼点を見出したりする中で、地域社会の課題解決に少しずつ近づくことができる醍醐味があります。私の目標は、制度や政策を立案する場と社会課題を抱える現場における意識の差を小さくすることです。そのため、調査対象とした現場の方に研究成果を共有して希望を持っていただけたときには、大きなやりがいを感じます。

これまでに影響を受けた人物について教えてください。

社会心理学の父といわれるクルト・レヴィンの考え方に影響を受けています。小さい頃から、伝記や漫画を通して様々な偉人の考え方に親しんできました。母とはさかんに議論を交わして、毎日のように生き方や社会について考えを巡らせていました。

休暇の過ごし方について教えてください。

今は怪獣のような一歳児の育児でてんてこ舞いです。比較的時間を自由に使えるため、曜日や時間などで区切られた休暇を過ごすことは少なく、研究に関する作業は土日や夜間・早朝中心に行っています。ありがたいのは夫の存在で、自分が考えていることについて話し続けています。学生時代から代々保護猫を迎えてきて、現在も一匹のサバトラ猫と暮らしています。

研究者を目指す若い世代へメッセージをお願いします。

私は子ども時代、世の中の不条理や自分の存在の小ささに絶望を覚えてしまうような、どちらかというとネガティブな部分にばかり目が行くタイプだったと思います。大学入学後、学問が世の理を鮮やかに説き、世界の見方を示すことを知り、先生方が心の底から前向きでより良い世界を作ろうと奮闘している姿を見て感動し、強い希望を感じました。私もその一員になりたいと思いました。また先生方は温かく迎え入れてくれるだけでなく、未熟な私の良い部分だけを見て引っ張り出し、それを活かす方法を教えてくれました。

研究や社会に対する純粋な気持ちがあれば、アカデミアはその気持ちを受け止める寛容さを持っている、どこよりも前向きで温かい世界だと感じています。そしてそうあり続けられるように、私も全力を尽くしたいと思っています。皆さんが自分の気持ちに向き合って夢や目標を叶えられることを、心から応援しています。

取材・文: 豊冨 瑞歩 / マンガ・デザイン: 中林 まどか

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