Interview #02

光インターネットの登場で世界が変わったように、光で今までできなかったことを実現するのが私の夢です

つくば市 ・ 筑波大学共同事業
発行:2023年10月

Profile

産業技術総合研究所プラットフォームフォトニクス研究センター研究員、工学博士

中村 文(なかむら ふみ)さん

大阪府出身。2017年に慶應義塾大学理工学部電子工学科を卒業し、2021年に同大学の博士課程を修了(工学博士)。その後、産業技術総合研究所プラットフォームフォトニクス研究センターに所属し光電融合についての研究に取り組む。最近の趣味はスプラトゥーンを友人と通話しながら遊ぶこととショッピング。

幼少期や学生時代はどんな子どもでしたか?

小学生の頃は、勉強はそこまで好きではなかったです。ただ、読書は好きでミステリー小説をよく読んでいました。中学生、高校生と成長していくうちに、だんだんと勉強が好きになったように思います。物理と国語が好きで、英語が苦手でした。2つ上の兄から「英語が苦手なら理系がいいのではないか」とアドバイスされ、理系を選択しました。(今思うと兄のアドバイスは間違っていて、理系だとむしろ英語がずっとついてきます…)
 
工学系が好きだったので、将来はメーカー系の仕事に就くのかなと思っていました。父の影響も多少はあると思いますが、身の回りのものに使われている技術に興味があり、関わりたいなと思っていました。

「身の回りの技術」に興味をもったきっかけはありますか?

中高生の時に、音声合成ソフトの初音ミクが流行っていて、その音楽が好きでした。その影響があったのだと思います。人工の音声に歌わせる技術に興味があって、初音ミクで楽曲制作をしている40mPさんの曲をよく聴いていました。最近は、YOASOBIのAyaseさんが初音ミクで作った曲を聴きました。

今思い返すと、当時は音をやりたかったんだと思います。私が進学した電子工学科は光だけでなく音に関する技術も扱っていました。フーリエ変換*などのノイズを除くための技術も電子工学科の勉強範囲に入っていて、ただそこで光の研究に出会って興味を持ち、音の研究ではなく光の研究をする道に進みました。

*フーリエ変換…様々な周波数で構成される(高さの異なる)音を、周波数毎に分ける手法

「兄のアドバイス」とありますが、もっとも影響を受けた人物はいますか?

両親の存在が、一番影響が大きいかなと思います。母親は看護師をしていて、「女性や母が働いている」という家庭環境で育ったのが今に影響していますね。子どもながらに「すごいな」と思っていました。父親は工学部出身で、私が理工学部を選んだのは、自分の興味もあるんですが、父の影響もあるだろうなと思います。母からは働く姿勢を、父からは分野的な影響を受けたと思います。

学生時代の自分へアドバイスするとしたら?

中高は帰宅部だったのですが、その時の勉強が今すごく役に立っていると感じています。三角関数などの数学的知識は当たり前のように使うので、「やっておいてよかったな」と感じています。今思えば、英語ももっとちゃんとやっておけばよかったとも思います。
 
大学時代はサークルに所属してイラストレーターというソフトを使ってデザインを作製していたのですが、その経験が役に立っています。光回路の構成図やデバイスのイメージ図などはパワーポイントよりも作りやすいんですよね。私は一人の方が好きだったので中高では部活に入らなかったのですが、大学のサークルでの経験が仕事の役に立っています。若い世代の方へアドバイスするとすれば、もし興味のある部活やサークルがあれば積極的に入った方がいいと思います。

現在の研究内容について教えてください。

インターネットのサーバってありますよね、そういったものの送受信をおこなう電気回路と光素子を組み合わせる光電融合を研究しています。具体的には、10㎜角程のチップの中に光の回路を描いていろいろな機能を実現するシリコンフォトニクス技術と、電気と組み合わせてさらに多様な機能を実現させようという研究をやっています。光ネットワークは、インターネットでの高速で大容量な光通信を通じて、世界を大きく変えました。今、スマートフォンやパソコンで動画やゲームの情報を当たり前のようにリアルタイムにやり取りできているのは、光のお陰なんです。なので、今電気でおこなわれている情報やデータの処理(例えばスマートフォンの中にある電気回路など)に光を入れることによって、光の速さ・大容量さを生かして今はまだできない高度な情報処理を実現することが私の夢です。

研究分野に興味を持ったきっかけはありますか?

大学の時に、電磁気学に興味を持ちました。目に見える光とか、電子レンジに使っているマイクロ波とかは全部電磁波で、同じ速さで進むんです。その中でも、式で解けるところが面白く、特に狭い空間に閉じ込められて進む光を研究したくて光回路を大学の研究室でやるようになりました。それから、先生の勧めや両親の後押しもあってそのまま博士課程に進みました。光は速すぎて取り扱いづらく、どうしても電気と一緒に扱わないといけないという課題があり、それで今の光電融合のグループに入って研究をしています。自分の好きな分野を何とか社会実装しようと、大学の研究をしていく中で考え、今の職場の面接のときにその問題意識を話しました。

なぜ民間が運営する研究所や大学でなく、産総研に就職したのですか?

博士課程に在籍していたときに、民間が運営する研究所のインターンシップに行って「なんか違うな…」と思ったんです。民間が行う研究は、5年後には実用化されるような成果を求められます。インターンを通して自分の興味のある研究が、すぐに役に立つことというよりは、10年20年先に役に立つかもしれないことだということに気が付きました。それに大学で行う研究のように、いつ役に立つか分からない研究も辛かったんです。なので、私のやりたいことに一番合っている今の職場を選びました。

研究をしていて苦労したことなどはありますか?

今まさに直面しています。大学では、設計図を作ることと外部で作製したものを測定・評価する研究をしていました。ですが、今の職に就いてから設計だけでなく自分でデバイスを作製するようになって、思ったように出来上がらない大変さを感じています。しかも、湿度や温度で形が変わってしまい、すごく振り回されています。
 
苦労は絶えないですが、まめに記録を取って、それを読み返して「この時はうまくいったけどこの時はうまくいかなくて、何が違うんだろう…」といったことを繰り返しています。やっと最近、「湿度が影響してるぞ」というのが分かってきました。あとは、自分一人ではなくチームで取り組んでいるので、仲間に相談することも支えとなっています。

「研究」というとのめり込んでしまうイメージがあるのですが、仕事と私生活のバランスはどうですか?

土日は休みにあてられますし、私生活も充実させられますよ。休みの日や仕事終わりに同期の人とご飯に行くこともありますし、一緒に研究をしている男性研究者の方で育休を取っていた方もいます。職場の隣の先輩は、お子さんがいるのでほぼテレワークで仕事をしています。勤務形態がフレックスタイム制なので、自分の仕事の状況に合わせて勤務時間を柔軟に調整することができます。研究職は比較的私生活とのバランスはとりやすい職種ではないかと思います。

取材・文: 中 玲蘭 / マンガ・デザイン: 中林 まどか

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