Interview #16

研究成果を現場へ届けたい
─さまざまな挑戦が導いた防災研究者としての道

つくば市・筑波大学共同事業
発行:2026年10月

Profile

防災科学技術研究所 社会防災研究領域 防災情報研究部門 特別研究員、博士(Ph.D.)

君嶋 里美(きみじま さとみ)さん

栃木県出身。防災科学技術研究所 社会防災研究領域 防災情報研究部門特別研究員。タイのアジア工科大学院(AIT)へ入学し、環境資源開発研究科修士課程修了。お茶の水女子大学大学院修士課程修了。AIT工学研究科博士課程修了。休日の趣味は、温泉巡りとワイン会。

業務内容について教えてください。

災害時にさまざまな方法で得られるデータや情報を活用し、被害状況を早期に把握して災害対応につなげるための研究を行っています。地震や水害など、災害が発生したときには、さまざまなセンサによる観測や現地調査などから、多様なデータや被害情報が得られます。しかし、こうしたデータや情報は、その種類だけでなく、得られるタイミングや範囲、詳しさなども異なるため、そのままでは十分に活用することができません。私たちは、こうした情報を統合し、新たな情報を得るたびに段階的に更新する技術を開発しています。

現在のお仕事に至るまでの流れを教えてください。

現在の防災研究につながる最初のきっかけは、東日本大震災です。当時私は、タイにあるアジア工科大学院(AIT)の修士課程を修了し、国連食糧農業機関のインターンとしてバンコクに滞在していました。東日本大震災によって予定していた帰国が難しくなり、その後、AITの地理情報センターでリサーチアシスタントとして活動を始めました。そこで衛星データや空間情報を活用して、社会課題を客観的・定量的に捉える研究方法に出会い、こうした手法をさまざまな社会課題に活用したいと考えるようになりました。一方で、それまで開発学を学んできた私にとって、工学系の博士課程へ進むことには大きな不安もありました。それでも、こうした手法を用いた研究に取り組みたいという思いが強く、AITで博士課程に進むことを決めました。

博士課程修了後は、インドネシアで、貧困を背景とした金鉱山開発の実態と、それによって引き起こされるハザードや社会課題を明らかにしながら、現地の人々と協働して持続可能な地域産業を共創する研究に取り組みました。

そうした研究を続ける中、2019年、豪雨で再び実家が被災しました。東日本大震災では、原発事故の影響で実家の農業にも大きな被害があり、その後ようやく生活を立て直しつつあった中での出来事でした。

この二度の被災経験から、防災は自身の生活にも深く関わる課題であることを強く感じるようになりました。そして、これまで培ってきた知識や技術を防災にも活かし、研究成果を実際の災害対応の現場まで届けたいと考えるようになりました。その思いを実現できる場を探す中で、現在の仕事を知り、応募を決めました。

やりがいを感じるのはどんなときですか?

新しいアイデアが形になったときや、研究成果を論文として世界に発信できたときです。また、災害対応に関わる方々から前向きな評価や期待の声をいただき、自分の研究が現場で役立つ可能性を実感できたときに、大きなやりがいを感じます。私にとって、手法の開発はゴールではありません。その成果が実際に社会で役立つまでの道筋が見えたときに、研究の醍醐味を感じます。

今後の展望について教えてください。

今後は、さまざまな災害に対応し、被害状況を早期に把握するための技術開発を進めていくとともに、自治体や防災機関との連携を深めて、研究成果を実際の災害対応に役立つ形へとつなげていきたいです。また、学生時代からの海外経験を活かし、海外との研究ネットワークも広げながら、国内外の研究者や防災機関と協働し、日本だけでなく世界の防災力向上に貢献できる研究者を目指しています。

子どもの頃のエピソードを教えてください。

中学生の頃、市のプログラムを活用して、初めて海外派遣に挑戦しました。その後、ユネスコや内閣府、外務省などが主催する海外派遣事業やインターンに参加したり、留学したりと、積極的に海外へ出るようになりました。奨学金の情報を探して自力で資金を集めるなど、興味を持ったことには、自分で機会を探して飛び込んでいくタイプでした!

アジア工科大学院(AIT)への進学を決めた理由はなんですか?

学部時代、カナダで社会的マイノリティを支援するNPOでのインターンに参加し、さまざまな社会課題に触れたことをきっかけに、〝開発学〟に関心を持つようになりました。開発学とは、貧困や教育、環境、ジェンダーなど、社会が抱えるさまざまな課題について考え、人々がよりよく暮らせる社会を実現するための方法を探る学問です。これまでの海外派遣で得た人とのつながりを通じて、AITにこの分野を専門とする教員が在籍していることを知りました。また、さまざまな国から学生が集まり、フィールド調査を行いやすく、国際会議も数多く開催されるなど、多様な国や分野の研究者と交流できる環境にも魅力を感じ、進学を決めました。

当時は学費のことや、それまで縁のなかった国で学ぶことへの不安もあり、ぎりぎりまで葛藤していたのを覚えています。それでも、奨学金や周囲の方々の支えもあり、最後は将来を見据えたときの「挑戦したい」という気持ちが一歩踏み出す後押しとなりました。

どんな学生生活を過ごされましたか?

AITでは、約50ヵ国から集まった多様な文化を持つ学生たちと、とても充実した日々を過ごしました。学生寮がキャンパス内にあったので、各国の料理を一緒に楽しんだり、休日には友人の母国を訪れたりすることもありました。大学院での研究活動以外にも、現地の方々と協働して地域課題を見つけ、その解決策を考えるサマースクールなどに積極的に参加しました。その後もこうした活動を続け、2018年には、世界の約150都市で同時開催されたNASA Space Apps Challengeに挑戦しました。私たちのチームは難民問題をテーマにした提案で、日本から唯一グローバルトップ25に選出されました。こうして多様な人々と協力しながら課題に取り組んだ経験は、現在の研究活動にも大きく生かされていると感じています。

研究者を目指す若い世代へメッセージをお願いします!

私自身、最初から防災研究者を目指していたわけではありません。派遣事業への参加や海外の大学院への進学など、さまざまなことに挑戦し、そこで出会った人や学問に刺激を受けながら、自分が何に関心を持ち、何に取り組みたいのかを少しずつ見つけてきました。

今はまだ「やりたいことが見つからない」という人もいるかもしれません。でも、やりたいことは最初から見つかっているものではなく、さまざまな経験をする中で少しずつ見えてくることもあると思います。少しでも興味を持ったことがあれば、「ちょっとやってみようかな」という気持ちで一歩踏み出してみてください。新しい場所に行ったり、さまざまな人と出会ったりする中で、それまで知らなかった世界が見えてくることがあります。

挑戦には不安もありますし、思い描いた通りにいかないこともあります。でも、その経験が思いがけず次の機会につながることもあります。私自身、一見遠回りに思える経験も、振り返れば今の研究につながっています。

ぜひ、自分の興味や好奇心を大切にしながら、いろいろな経験を重ねてみてください。その先に、自分なりの道が少しずつ見えてくると思います。

取材・文:平 彩音 / マンガ・デザイン:中林 まどか

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